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ヘアスタイル
2010年10月23日
9jaの若い女性たちは、髪型のことをつねに意識している。
彼女たちの髪には生まれつき細かいウェーブがかかっており、それが絡み合いながら上向きにふくらむように伸びる性質をもっている。だから、伸びてきた髪は編みこむか、専用のクリームを使って、ふくらみを押さえながら髪を下向きになでおろして束ねている。編んだ髪は2週間をめどにほどき、洗って、またあたらしく編みなおす。
Please call me. I love you.
2010年10月9日
真昼の太陽が照りつけて、車内は蒸れていく。左右に座る人たちと密着した太ももは汗でにじんでいく。メール着信音が鳴りはっとして、手さげ袋をまさぐる。
“Please call me. I love you.” (「電話ください――あなたのこと思っています」)
つかんだ携帯に表示された、「いつもの」テキスト・メッセージ。渋滞停車中の満員バスのなか、ひとりほほえむ。
海を渡り、陸をゆく
2010年10月2日
発車するやいなや、乗客全員が大声で祈った。
「神よ、どうかわれわれを無事に目的地へ連れて行きたまえ」
メーターの針は、時速90キロと110キロを行ったり来たり。風でおくれ毛が頬にあたって痛む。エンジンの上に座る太ももの裏は汗でぐっしょり。運転手がギアチェンジするたびに、シフトレバーと彼の右腕がわたしの左膝をつつく。走行距離は25万9027キロメートルを越えていく。
まだ見ぬ孫たちへ
2010年9月25日
結局ね
一緒やったんよ、遠い異国の地へ行っても
みんながそう
嫉妬したり、抱きしめたり、絶交したり、祈ったり
うらやましい、愛おしい、腹立たしい、元気でいてほしい
アーティストたちよ
2010年9月18日
降りやまない雨のなか、ナイジェリアから帰国した。残暑の厳しい日本にいて、9jaの朝の肌寒さを思い出せない日もあった。目が覚めてあの肌の感覚をとりもどす今日日、ひとりのアーティストが来日した。
ココ
2010年9月11日
「個々」ではなく、「此処」と発音してみてもらえるだろうか。
そう、それが「ココ」のイントネーション。チョコレートの原料であるカカオのことを、「ココ」とナイジェリアの人たちは呼ぶ。輸入食品店にでも行かない限りチョコレートの姿を見ることはないけれど、ナイジェリアのココの輸出量は、世界でも五本の指に入る。
父さんと母さん
2010年9月4日
「そうね、ポピシはモミシをすごく愛してたわ」
二女の大きな丸い目は、微笑みで細くなった。5年前、大学生だった彼女の下宿のテレビの上には、額縁に入れられたポピシの小さなモノクロ証明写真。いま、その写真は嫁ぎ先の家の鏡台に。
染みた果汁
2010年8月28日
どうしようもないえぐみが、びりびりと舌にくる。
「(中国語をまねて)チンコー! チンチョン!」もうやめて。「男か? 女か?」そんなにじろじろひとの体を見んでって。「今日はなにを持ってきてくれたの?」毎回持ってこれるわけなかろうもん。「オロリブルクッ(腐った頭)! ぼーっと歩いてんじゃねぇぞっ」そっちがバイクで蠅みたいに飛び交うけんやろ。ああもう、血がでてきたやん。
日本で生まれたあんた、9jaで生まれたわたし
2010年8月21日
あんたはナイジェリアで生きていけないわね。ここでサバイブするにはもっと自分勝手じゃなきゃいけないの。そんなんじゃあんたは利用されちゃう。わたしはそれがゆるせない。
祈り、とどろく
2010年8月14日
大声をあげ、こぶしを振りあげて、全身をふるわせながら、祈り、歌い、踊るみんな。わたしはただぼう然とする。熱い。天井につるされた扇風機は、その羽根が見えるほどにゆっくりとしかまわらない。60人の汗がまじった熱気と鳴り響く祈りで空気は重く、気が遠のいていきそう。息苦しい。立ちっぱなしで足がむくみ、薄くて硬いプラスチックの椅子に腰をおろす。痛い。日曜礼拝がはじまって、すでに5時間半が経っていた。
この暮らし、あの感覚
2010年8月7日
先日、彫刻家のアフォラヨンさんが畑に連れて行ってくれた。トウモロコシ、キャッサバ、ヤム芋、菜っぱなど、ここでは多くの人びとが、自分たちでできるかぎりの農作物を育て、家族で食べる。アフォラヨンさんのうしろではしゃぎながら畑をまわり、あのころと同じ、土と緑のにおいをかぐ。
一緒にこたつで暖をとっていたはずの祖母の姿がない。ひとりで目が覚めた、冬休みの午後。急いで玄関へ行くと、手押し車がなくなっている。あわてて坂を下って畑へ向かう。大根畑のなかで、しゃがむ祖母の姿を見つけた。