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ソーシャルな関係とは?(前編)

2010年8月20日

今回は、研究に関する話を離れて、「ソーシャルな関係」について考察してみたいと思います。

現実世界における社会的な関係

あなたには、友人がいる。(特別な例をのぞけば)両親がいて、家族がいる。多くの場合、隣人がいて、近所の人と路上で顔を合わせる。あなたは、今、日本という国に暮らしていて、たとえば、東京都の渋谷区に住んでいる。あなたには、同じ学校で学んだクラスメートがいて、同じ会社の同僚がいて、同じスポーツで一緒に汗をかく仲間がいる。

現実世界における社会的な関係とは、このような、共時的な体験を有するなんらかのリアルな関係であって、たいていの場合、あなたはその関係がある相手の人の顔や考え方、住んでいる地域を知っています。彼らのなかで、上記のさまざまな文脈に応じた個別の関係というのがあって、「血縁関係」、「友人関係」、「同僚関係」、「同窓生」、「町内会」、「チームメート」といった社会関係があります。同じ「国籍」の人も、すべての人の顔まではわからないまでも、多くの場合、同じ時代を同じ国のなかで生きて、同じアニメやドラマを観て笑い、同じニュースを観て暮らしているはずです。

もちろん、このような例にあてはまらない場合も多くあるでしょう。しかし、現実世界における社会的な関係とは、同じ時代に、同じ文化的な体験を共有するような人たちとの関係である場合が多くあります。このような社会関係のことを、現実世界において同じ場所を共有する人たちの集まりであるとして、筆者の恩師のひとりである金子郁容先生は「ローカルコミュニティ」と呼んでいます[1]。

ローカルコミュニティは、視点を変えれば、現実世界での共時的な文化体験を有することから、時代背景も共有しいるということができます。そのため、時代や年代を共通体験に持つという意味で「エイジ・コミュニティ」と呼ぶこともできるでしょう。社会的な関係を共有するグループをコミュニティと呼ぶなら、現実世界におけるコミュニティは、地域からも時代からも自由にはなれなかったのです。

ソーシャルメディアとコンテクスト

一方で、今日大きな注目を集めている「ソーシャルメディア」上では、インターネットを介してヴァーチャルな社会関係を創造し、維持するのをサポートしてくれます。現実世界でのそれとは違って、同じ目的や興味を持っているユーザ(ここではあえて「人」とは呼ばず、ソーシャルメディアという個別の仮想空間上のシステムが提供するサービスを利用するユーザと呼びます)間の関係には、時間的、空間的な制約はほとんどありません。

ここでは、ソーシャルな関係を人に限定する必要がないため、ウェブサイト間だったり、個別のTweet(Twitter上での発言)間だったり、ユーザ(たいていの場合、人)と書籍の関係であったり、さまざまなソーシャル関係を定義することができます。この、ソーシャルメディア上でのネットワーク関係は、視覚的に表現したときにグラフ構造していることから「ソーシャルグラフ」と呼ばれています[2]。

ソーシャルメディア上では、時間的、空間的な制約がないために、筆者のまわりには、丁寧に「夜分に失礼致します」で始まるメールをくれる人がいたり、自由に(つまりオープンに)興味のある人をフォローできるTwitter上で「フォローよろしくお願いします」と双方向の承認関係を強要する人がいたりします。

これは、一見新しいソーシャル関係の構築にブレーキをかけるような現象にも見受けられます。あるいは、ICTリテラシーが低い、つまり、情報通信技術に慣れ親しんでいないユーザが現実世界での旧い慣習を持ち込んでしまっているようにも見えます。しかし、果たしてそうなのでしょうか?

(次回に続く)

参考文献

  1. [1] 金子 郁容, “新版 コミュニティ・ソリューション―ボランタリーな問題解決に向けて“, 岩波書店, 2002.
  2. [2] Brad Fitzpatrick, “Thoughts on the Social Graph,” 2007.