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ソーシャル化の先にあるもの(続き)

2011年8月7日

前回に引き続き、ソーシャル化の先にあるものについて考察してみたいと思います。

ソーシャル化の次に何があるのか

前回の記事で、世のなかの多くの媒体やコミュニケーションの方法がアナログであった時代から、情報をデジタル化し、そして、デジタル化された情報やそこに関わる人が相互に関係を持ってコミュニケーションをするソーシャル化の時代への変遷してきたことを述べました。

その先にぼくらが目指すべき方向は次の2つに集約されるのではないかとぼくは考えています。

人と機械がより関わりやすくする

図1. ソーシャル化の次に目指すべき方向

図1. ソーシャル化の次に目指すべき方向

そのひとつ目が、人と機械がより関わりやすい環境を構築することで、ソーシャル化をより突き詰めていく方向です。

ソーシャル化の本質は、リンクをすることとリンクの数を増やすことです。ソーシャル化が目的であるため、ビジネスの中心は、いかにソーシャル化しやすくするかということに主眼が置かれています。

その先の、ソーシャル化を推し進めていった先にあるのは、現実世界の製品やサービスを通じて、テクノロジーに対して、人が関わりやすくなる仕組み、あるいは、人をより巻きこみやすくする仕組みです。

図2. ELP Lite (by Sassor)

図2. ELP Lite (by Sassor)

たとえば、これまではなかなかデジタル情報化がされにくかった日常生活の「電力消費行動」という情報を、生活のなかの電源と機械の中間にセンサーを設置することで、自動的に情報を入力できるようにしたのがSassor[1]の「ELP」です。ELPを設置することで、人や機械の近くに入力デバイスを用意することで、データの入力をしやすくし、データベースの構築を容易にします。

また、最近話題になっているデザインの重要性[2]についても、人と機械のインターフェースの意義が重要視されるようになっている顕れではないかと思います。

ソーシャルグラフを分野毎に意味づけし、価値をつくる

そして、もうひとつは、ソーシャル化がもたらしたソーシャルグラフ(膨大な数のユーザや情報と、その相互のリンク関係)に具体的な意味や価値を見出す方向です。

ソーシャルグラフ上には、単純なノード(個々の人や情報)とリンク(つながり)しかありません。そこに何らかの意味を与えたり、価値をつくりだすためにもっとも大切なことは、意味や価値を生み出す分野を限定することです。つまり、これまでは「人と人」とか「人とウェブサイト」とか「この情報とこの情報」のようなものでしかなかったソーシャルグラフを、たとえば、「商品と人」とか「人と企業」とか「人とリスク」といった分野や対象毎に意味のあるソーシャルグラフに進化させることです。

図3. i.ntere.st (by TATTVA)

図3. i.ntere.st (by TATTVA)

グラフ理論でいうならば、これまでのソーシャルグラフが「重みつき有向/無向グラフ」であるならば、これからは「多次元重みつき有効グラフ」ということができます。あるひとつのリンクは、単純なリンク関係ではなく、必ずその方向には意味があり、一つひとつのリンクに異なる意味を持った複数の重みが条件に応じて定義されるグラフであるということができます。

TATTVAのi.ntere.st[3]は、「商品と人」の関係を、既存のソーシャルグラフ上に定義するサービスです。FacebookやTwitterは巨大なソーシャルメディアであり、巨大なソーシャルグラフを有しています。しかし、それだけでは、「Aさんはこの商品が好き」であるとか「Bさんはこの商品を持っている」「Cさんはこの商品を自分でわざわざ買ってDさんにプレゼントしてもいいと思っている」など、より具体的な人と商品の関係はわかりません。i.ntere.stは、ソーシャルグラフ上に、既存のソーシャルメディアだけでは明確に表現することができなかった「人と商品の経済活動における意味」を与えることができるサービスということができます。

ソーシャルメディアは情報入力装置

ソーシャル化の次にあるものは、これまでの漠然としたソーシャルバブル後の、より具体的で、より現実的で、より身近な個別分野に置ける、ソーシャルグラフの意味づけと価値づくりです。

そういった意味では、これから2つの目指す方向性という視点に立ったとき、つまり、これからの世の中の立場から顧みてみると、ソーシャルメディアは、現実世界の情報を入力しやすくする「情報入力装置(input device)」であったといえそうです。つまり、人が何らかの情報をデジタル情報化し、それを他人と共有するなかで人と情報のあいだにリンク関係を定義しやすくしてくれたことが、ソーシャルメディアのひとつの歴史的な貢献なのではないかと思います。

  1. [1]ELP by Sassor, http://sassor.jp/elp
  2. [2]StartupTokyo #008 “Design for Startups”というイベントでのOpen Network Labの前田氏によるプレゼンテーション資料が参考になりますので共有をしておきます。
  3. [3]i.ntere.st by TATTVA, http://i.ntere.st