いつか、どこかへ ドォッカーデー


【番外編】大野更沙さんブログ「困ってるひと」

2010年11月15日

大野更紗「困ってるひと」

大野更紗さんが、ポプラ社・ポプラビーチで連載している「困ってるひと」のブログを紹介します。大野さんは、免疫系の難病を患う「医療難民」で、ビルマの「毒」にやられてしまった「ビルマ女子」。

ブログで綴られている「難民」としての当事者の経験は、大過なく暮らす私たちの生活とは、はっきりいって別世界。経験したものしかわからない壮絶さが垣間見える。しかし、大野さんがツイッターやブログで提起する問題を丹念におっていくと、彼女が経験する「この世の地獄」は、決して他人ごとではないかもしれないと思えるようにもなってきた。

いまの世のなか、「難民」だらけである。「医療難民」や「ネットカフェ難民」をはじめとして、「○○難民」ということばがあふれている。例えば、「介護難民」、「買い物難民」、「地デジ難民」、「トイレ難民」、「選挙難民」、「駐輪難民」、「マック難民」、「結婚難民」、「モテ下手難民」……その数は年々増加しているようにも思える。もちろん、これらの用語にコンセンサスがあるわけではないし、深刻さの程度もさまざまである。しかし、「困ってるひと」は、意外にたくさんいるのも事実だし、「難民」にならない保障はどこにもない。

大野さんのブログでは、そんな当事者の肉声が、ときに客観的に、あますとこなく伝えられている。「一度は死を覚悟した」という深刻な内容の行間に、ユーモアすら垣間見えてくるから不思議なものである。

誰も「難民」になることは想像したくないし、できれば目をそらしておきたい。「ユーモア」を交えながらのメッセージは、そんな「健常者」に目を向けさせるための戦略だろうか?

さて、そんな大野さんのおかれた立場を想像するとき、多田富雄さんの 『免疫の意味論』(青土社、1993年)という本を思い出す。

そのなかで、多田さんは、免疫とは異物を攻撃ばかりしていると身体をこわすことになるので、免疫には異物との共存を選ぶ「寛容さ」があると述べている。転じて、戦争や差別を解消するにも、他なるものを受け入れる「寛容さ」が必要ではないか、という。

「寛容さ」を失った免疫と闘う大野さんは、それでも寛容に自己と世界をみつめ、ぎりぎりのところで私たちにメッセージを発し続けている。そんな姿に敬意を表したい。



著者紹介

久保忠行

久保忠行 (くぼ・ただゆき)

1980年、兵庫県に生まれる。2003年、大阪府立大学総合科学部人間科学科を卒業。同年から神戸大学大学院総合人間科学研究科へ進学。2006年に修士課程を修了し、2011年に同大学院の博士課程を修了(博士・学術)。同年4月から日本学術振興会特別研究員として京都大学東南アジア研究所に在籍。現在、タイ・ビルマ国境地域と日本の難民に関する人類学的な研究に取り組んでいる。

おもな業績に、「ビルマの『国民和解』に関する予備的考察―カレンニー社会から」、(『神戸文化人類学研究』、第2号、2008年)、「タイの難民政策――ビルマ(ミャンマー)難民への対応から」(『タイ研究』、第9号、2009年)、「難民の人類学的研究にむけて――難民キャンプの事例を用いて」(『文化人類学』第75号第1巻、2010年)、「難民キャンプにおける伝統の復興―難民キャンプと故郷の連続性」(『南方文化』第37輯、2011年)、『ミャンマー概説』(共著・めこん・近刊)などがある。

(株)清水弘文堂書房

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