一人企業


シリコンバレーで大切なことは子供の頃に両親から教えてもらっていた

2012年5月24日

サンフランシスコに来て2か月が経とうとしている。力不足ながらも全力で走り続けて、信じているものが間違っていないということがわかった。まだ大きな成果は出ていないけれど、一歩一歩新しい問題が出現して、それを解決していくプロセスを楽しめるようになってきた。そんな中で、大事なことは、僕の両親、おじいちゃん、おばあちゃんの時代、さらにはもっと前の時代から変わっていないのだと、今、強く思う。

嬉しいことといえば、お客さんやパートナーの候補になる人たちがオフィスまでわざわざ脚を運んできてくれたり、リリース前のプロダクトについての情報を紹介しにきてくれたり、わずかながらもぼくの経験や知識を頼りにフィードバックを求めてオフィスに来てくれるスタートアップがあったり、そのあとすごーく喜んで帰ってくれたり、逢えて本当に良かったよ!とメールをもらえたり、そして何よりもぼくらの製品を早く使いたいと待ち行列をつくってくれている会社があるということだ。少しでも、この街の、このコミュニティに貢献できていて、必要とされていることを実感できることはかけがえがない。

TechCrunchなどで成功したスタートアップの記事をたくさん見かけるけれど、そういう人たちと近くで接していると、幸運とか才能とかによる特別なジャンプアップはほとんどないということがわかる。どの会社も、どのチームも、何度も失敗を繰り返しながら、時間をかけて今に辿り着いている。謙虚に着実に継続する中に、ひとつひとつ小さな結果がついてきている。幸運なジャンプアップがあるように見える場合でも(もちろん、そうでない場合でも)、見えないところで周りの多くの人に支えられていることがわかる。この繰り返し以外に大きな成功も、ほんの小さな成功もないのだと思う。ぼくのいるFounder’s DenというコワーキングオフィスにAppStoreでカテゴリー1位のアプリをつくっている会社があるけれど、彼らはほかのどの会社よりも時間をかけて、楽しそうに、遅い時間まで働いている。単純に、努力の賜物なんだなとわかる。

そんな中でぼくらにできることは限られていて、少しずつ自分を磨くことくらいしかないのだと思う。自分たちの成功のために、周りを動かすことではなくて、目の前にチャンスが来たときに、それを受け止めて、それを活かしていけるような器が大切だし、そのために、自分の方で事前に準備しておくことが必要だ。そして、いつでも、自分が相手のためにどんな貢献ができるのか、どんなふうに役に立てるのかという視点でいることも大事なのだと思う。少なくともぼくはそういう心構えでいる。そうすると、不思議と思いがけないようなチャンスが、当たり前のように転がりこんでくるのが見えるようになる。

この街で感心させられることは、カンファレンスやミートアップなどでの新しい人との出会いや会話が、ほぼすべての場合に共通して「ぼくに何かできることはあるかな?」という質問から始まることだ。そして、自分の取り組んでいることやバックグラウンドの話になると、自分からお願いしなくても、「ぼくはこういう形であなたの役に立てると思う」という話をしてもらうことができる。それが具体的な形になる場合のスピード感は本当に速い。それが実を結ばなくても、何かの際には相手のことを覚えていて、「お前、これやってたよね? 興味あればこの人を紹介したいのだけど。というか、すでに紹介しちゃったから、会ってきてね!」という連絡が忘れた頃に来たりするのだ。スピード感が早すぎるのだけれど、それに合わせて(締切に追われて)準備した分、予想以上に大きく進展できたりする。そして、そういうきっかけから、思いがけずに、本当に会いたかった人に、会えたりするのだ。ポジティブに、笑顔で、積極的に周りと関わろうとする限り、そして、絶え間なく自分を磨き続ける限り、このプロセスの輪の中にいることができる。そして、このプロセスが、街全体に大きなエネルギーを産んでいるように思う。

2か月間、そんな中でほぼ欠かさずにやってきたことがある。毎日寝る前に(良い意味でも、悪い意味でも)一日の反省をして、その日に会ったすべての人と、直接ないしは間接的に支えてくれているすべての人の顔を思い浮かべて「ありがとうございます」と言ってから寝ることにしている(漏れがあることもあるかもしれないけれど)。そうして、困難のあった日でも、厳しいフィードバックをもらった日でも、それに気づかせてもらえたことに感謝する気持ちでいると、不思議と前向きな解決策が出てくる。きっと、これは、長い年月を経て培われてきた人類の遺産ともいうべき経験で、おじいちゃん、おばあちゃんを経由して、両親から教えてもらったことと同じだ。そして、これがシリコンバレーという街を動かしている(ようにぼくには見えている)すごく人間味のあるエネルギーと波長がぴったりなのだ。

ニュースやブログ等のメディアで、スタートアップの仕方とか、資金調達の方法といった、スキルやテクニックに関することがたくさん語られるようになったけれど、ここで一番大切なことは、(少なくともぼくの場合は)子供の頃に両親から教えてもらったと同じで、とてもシンプルなものなのだと思う。


著者紹介

高橋雄介

高橋雄介 (たかはし・ゆうすけ)

1980年生まれ。2003年 慶應義塾大学 総合政策学部卒業、2005年慶應義塾大学 大学院政策・メディ ア研究科修士課程修了。2008年同大学院後期博士課程単位取得退学。博士(政策・メディア)。2005年より同大学院研究員として、知識ベースシステム、マルチデータベース、ビジュアリゼーション、教育およびキャリア開発におけるデータベース利用に関する 研究開発 に従事(~2009年)。2010年11月、株式会社一人企業を創業。2013年2月、米国カリフォルニア州Mountain ViewにてAppSocially Inc.を創業し、CEOに就任。専門は、データベース、知識ベース、マルチメディアデータベース、顧客開発、および、 グロースハック。2013年4月より、米国シリコンバレー在住。

(株)清水弘文堂書房

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