d beauty of 9ja ― 魅するもの、ナイジェリアから


I miss you

2011年11月26日

2009年7月22日 イフェ モダケケ地区の下宿にて

「I miss you――会いたいわ」
電話の向こう、大陸を越えた外国にいる夫にそう言っていたママ・ブリジッタ。話のほとんどはエヴェ語(ガーナ南西部を中心に話されている言語)でわからなかったけれど、この英語はいつも下宿の居間から、庭から、ベランダから聞こえてきていた。

2010年、欧州から一時帰国した夫と5年ぶりの再会を果たしたママ・ブリジッタ。その1年後、母国ガーナで仕事の決まった夫のもとへと引っ越して行った。彼女にとって、11年ぶりの帰郷だった。

かつて夫が仕事をしていたイフェに娘とふたりで残っていたママ・ブリジッタと、同じ下宿で19か月過ごした。掃除や水汲み、料理や看病、雨漏り対策や巨大ネズミの退治、愚痴や悩みの言いあい、なんでも一緒にやってきたひとつ屋根の下。異国の地での不自由と孤独を気に病まず、女ひとりしっかりとやっていく彼女の姿を見ることは、「9ja暮らしのレッスン」でもあった。学んだ秘訣は、しっかり食べることと、たくさん笑うこと。

ともに暮らしたあたりまえの日々はときの向こうに過ぎ去り、かけがえのない思い出となった。つぎに下宿へ行ってももう会えないけれど、最愛の人と一緒に暮らせるようになった彼女に今度はわたしが言う。
「I miss you――会いたいよ」

Photo
誕生日の晩、当時フランスで仕事をしていた夫と携帯電話で話しをするママ・ブリジッタ。ひとり娘のブリジッタの手料理と手づくりのケーキ、そして少しのお酒を下宿のみんなでかこみ、ママ・ブリジッタの誕生日を祝った。この夜も電気はなく、音楽をかけて踊ることのできないパーティだったが、ろうそくの明かりとにぎやかな笑い声のなかでママ・ブリジッタはよろこんでいた。暗くてきちんと写真を撮れなかったため、数日後、太陽の光のなかで誕生日の記念写真を撮った。ママ・ブリジッタは夫が買ってくれたこの白いワンピースをもう一度着て、庭でポーズをとった。
2009年7月22日 イフェ モダケケ地区の下宿にて

(毎週土曜日更新)



著者紹介

緒方しらべ

緒方しらべ (おがた・しらべ)

1980年島根県に生まれる。18歳まで福岡県で育つ。ロンドン大学東洋アフリカ学院(SOAS)にて学士課程をへて、2005年に同大学院修士課程を修了。2007年より、総合研究大学院大学文化科学研究科にて博士後期課程に在籍。

2003年以来ナイジェリアでフィールドワークに従事し、造形活動にたずさわる人びとをテーマに研究をおこなっている。

(株)清水弘文堂書房

TEL 03-3770-1922 FAX 03-6680-8464

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