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台所に弟

2010年3月13日

朝食をつくってくれる弟。2009年11月25日 イフェ、モダケケ地区の下宿先の台所にて

かつて向かいの部屋に住んでいたアレックスは、大学へ通う姉と一緒に暮らしていた。毎朝大学へ行き、キャンパス内のバス停近くに黄色いパラソルを広げるアレックス。その下で学生たちに携帯電話のプリペイドカードを売って得る収入を、姉との生活費のたしにしていた。毎晩10時ごろだっただろうか、仕事から帰り食事を済ませたアレックスは、ノックしてわたしの部屋に入ってくる。その日あったこと、生まれ育ったラゴスの思い出、将来の夢、いろいろな話をはじめた。机に向かっているわたしはペンを置き、彼の話に耳を傾ける。たわいもないことだけれど、かけがえのない時間。机の左斜め後ろにあるベッドに腰掛けて話しつづける彼は、わたしの弟のような存在。

一緒に過ごしたあの日々から6年の歳月が流れた。25歳になった弟は大学で短期資格取得コースを修了し、今はラゴスで仕事を探している。

弟がわたしを訪ね、久びさにこの下宿に滞在していたある朝のこと。もう少し眠っていたいけれど、朝の支度をしなければ。布にくるまっていると、ほうきで掃く音が玄関先から聞こえてきた。その後すぐ、ドアの向こう側でポリバケツに水が注がれる音。しばらくして、フライパンの上で油が跳ねる音。玉ねぎとマギー・ブイヨン・キューブの香りに誘われ、起き上がって台所へ行く。そこに立つ弟の姿を見たわたしは、カメラを取りに急ぎ足で部屋へ戻った。

玄関先や屋内を掃く、1日分の水を汲む、朝食をつくる、洗濯する……どの家庭にもある朝の日課だが、ここでは多くの場合、そのすべてを女性や子供たちがする。男性が台所に立つことはめったにない。カメラを向けると、弟は照れくさそうに料理をつづけた。

Photo
朝食をつくってくれる弟。
2009年11月25日 イフェ、モダケケ地区の下宿先の台所にて

(毎週土曜日更新)