犬ごころ、人ごころ


においの先に見えている世界とは?

2014年4月12日

においから膨大な情報を仕入れるワンコたち。においを嗅いでいるとき、彼らの頭のなかにはどのような世界が広がっているのだろうか?

においから膨大な情報を仕入れるワンコたち。
においを嗅いでいるとき、彼らの頭のなかには
どのような世界が広がっているのだろうか?

=前回に引き続き、人と犬とのコミュニケーションについて考えてみたい。前回は「人の言葉」が主なテーマだったが、今回は「におい」――すなわち「嗅覚」をテーマにしてみよう。
=ただその前に少し補足させてもらいたい。人は言葉でのコミュニケーションが主流となるが、犬は気配や気、エナジーなどの無形のものを感じ取る能力が高く、その上で総合的に判断していると前回書いたが、例えば犬が悪さをしたり、しつけたことができなかったりすると、どうしても人は大きな声を出して叱ったり怒鳴ったりしてしまう。しかし、犬が言葉を理解できるわけもなく、その高い音圧とヒステリックな気配は、かえって逆効果になったり副作用が出たりする場合もある。「なんで言ったのにわからないんだ」と言葉にして言いたくなるのもわかるが、犬は人の言葉の意味を決して理解するわけではなく、平常心を保ったリラックスした態度をとりながら、トータルなコミュニケーションをはかろう。声を発するなら、低くて強めの“毅然とした”トーンの方が犬によく伝わる。

目を閉じて恍惚の表情を見せるセナ

目を閉じて恍惚の表情を見せるセナ

=さて、今回のテーマは「嗅覚」。私が「におい」というものについて深く考えるようになったのは、最初の愛犬セナを飼ってからだった。私の「におい」に対するこだわりや嗅覚は極めて平均的で、犬の嗅覚は人より優れているという程度の知識は持っている普通の日本人である。だから「におい」や嗅覚について深く考えたり意識することもなかった。それがセナとの生活が始まると、さまざまなシーンで嗅覚に優れた犬の仕草が気になるようになり、「におい」に支配された行動の多さにも驚かされた。
=なかでも決定的なきっかけは、2歳ぐらいに成長したセナが散歩中に何度も見せる“恍惚”と“陶酔”の表情だった。本当のところは私の勝手な思いこみかもしれない。しかし私にはそう表現するしかない表情に見えるのだ。そのときから“におい”を、正確に言うと“嗅覚が極めて優れた(人の1000~1億倍といわれている)犬が見ている世界”というものは、いったいどういうものなのだろうか、ということを意識するようになったのである。

落ち葉のにおいを一心不乱に嗅ぐアンディ

落ち葉のにおいを一心不乱に嗅ぐアンディ

=人は視覚から情報の大部分を得ている。見えることがすべてといってもいいぐらい視覚に頼り、その情報で生きている世界を認識している。しかし犬はそうではない。人間にとっての視覚に近いぐらい嗅覚から情報を得ている―らしい―。だからそれによって認識する世界というのはいったいどういうものなのか、想像できるはずもないが、どんな景色が見えているのか(人は視覚優位動物なのでこう表現するしかない)、セナの表情を見ていて無性に知りたくなったのだ。
「そんなにいいものなのか?!」
=そう思った私は散歩中に何度か地面に這いつくばって、セナが恍惚の表情を見せてクンクンしていた場所を嗅いでしまったこともある。もちろん私は、いくら何でも糞尿などのにおいを嗅ぐことをしない。そうではないところを嗅いでいるから気になったのだ。大概ほとんどなにもにおわない。におっても草のにおいがするぐらいだった。それなのにあの恍惚の表情……今でも当然その答えはわからない。ただ、その行動をとったことによって、予期せぬ変化が起こった。それは、私とセナの距離が近くなったのだ。ほんのわずかだけ、お互いが理解し合ったと言ってもいい。セナは私のことを「嗅ぐという行動の大切さ」がわかっているやつと思い、私はセナの「嗅ぐという行動」をより尊重するようになった。犬から、特にオスから嗅ぐという行為を奪ったら、その犬は不幸だと思う。

朝の海の香りを全身に取り込むディロン

朝の海の香りを全身に取り込むディロン

=むやみににおいを嗅がせないというしつけもあるし、使役犬ならばそういうことも必要だ。しかし、基本的に犬からにおいを嗅ぐという行動を奪うことは、人から見るという行動を奪うことに等しいと思うので私にはできない。その上で家庭犬として人間社会で一緒に生きていくためのしつけやマナーを行なっていけばいいのではないだろうか。あの恍惚の表情から、私はそう思い至ったのである。


著者紹介

池野谷 健二(いけのや けんじ)
Editor, Photographer, Writer, DTP Director
湘南・鵠沼在住
ken [at] dogphoto.jp ([at] を @ に変えてください)

出版社勤務を経てから平成2(1990)年に独立。様々な編集・制作業務に携わり、20年以上にわたる雑誌編集長のキャリアも持つ。現在はフリーとして活動中。

1997年、ゴールデンレトリーバーのセナ(♂)を飼い始めたことがキッカケで犬の撮影を始め、2002年に2匹目のアンディ(♂)も家族の一員に。それからは愛犬が生活の中心にいるという生活となる。2010年4月、初代のセナが亡くなり、2011年3匹目のディロン(♂)が家族に加わり、現在は2匹のゴールデンとともに暮らしている。

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