犬ごころ、人ごころ


シッポミュニケーション-2

2011年6月2日

犬と人間がコミュニケーションをはかっていく上で、特徴的なサインの1つが犬のシッポの動きであるということもあって、私は前回「シッポミュニケーション」という造語を使わせてもらった。

さて「シッポミュニケーション」について、具体例も交えて、もう少し書いてみたい。
「シッポミュニケーション」の典型的な流れを、愛犬のアンディを例に説明しよう。
(ヒト)静穏にくつろいでいるアンディの名前を軽く呼ぶ。
(イヌ)顔を上げ、こちらを見て、目が合うと少しシッポを振る
(ヒト)そのままじっとこちらが見つめていたり、私が一歩近づいたり、また「ゴハン」「サンポ」のように理解している言葉を続けて掛ける。
(イヌ)一瞬にして軽やかに立ち上がり、期待にあふれた笑顔でちぎれんばかりにシッポを強烈に振る。

これがアンディの日常である。

しかし、くつろいでいるのだが、様子や表情がなんとなくいつもと違っていたり、こちらを見ている視線を感じたりする場合は、当然私からかける声も言葉も変わってくる。

「何か持ってきてほしいの?」「水が飲みたいの?」「外が気になるの?」「オシッコしたいの?」「居心地が悪いの?」「顔を拭いてほしいの?」などなど、やさしい声で穏やかに彼にたくさん話しかける。かけた言葉やちょっとしたこちらのしぐさが、彼がそのとき求めているものにマッチすると、たいがい彼はシッポを動かして「そうそう、それそれ」と伝えてくる。

外が気になってしかたがないときに、私が玄関のベンチに登り、高窓から外を見わたして「誰もいないよとか、配達の兄さんだよ」などと報告してあげると、彼は納得してまた玄関でくつろぎ始める。寝そべっていたクッションの上のタオルがクシャクシャでしっくりきていないと感じているときに、それを直してあげると、ほんとうに「よくわかったね」と言っているような視線を返してくる。濡れた後の拭きとりが足りないと彼が感じているときに、新しいタオルで特に顔周辺をもう一度拭いてあげると、本当に満足そうにクッションなどの上で本格的に弛緩し始めたりする。

具体例をもう少し書いてみたい。まだアンディが小犬の頃、こんなこともあった。その日下痢ぎみの彼は我慢できなくて夜中に家のなかでお漏らしをしてしまった。早朝、その強烈なにおいで起こされた私は、急いで部屋続きのリビングに入ると、彼は部屋の端に逃げたりせずに、そのにおいのもとの横に、非常に困った顔をしてきっちりオスワリをしている。彼と目が合ったが、私は言葉も発せずに一目散にトイレットペーパーや雑巾、バケツなどを準備し、排泄物を処理に走った。驚いたことに彼はまだ幼かったにもかかわらず、彼は相変わらずそこを動かずにジッとしていた。処理が終わりやっと一段落したときに、もしそれまでに動き回っていたり、私が起きて目が合ったときに、あの場所でシッポを振っていたら、○○まみれになっていたことは確実だったということに想いが至ると、私の胸は強く締めつけられ、彼を叱ることはもちろんせずにしっかり抱きしめ、そして30分間は彼の身体をなで続けた。

先代のセナは、とっくにこのような私との以心伝心力の領域になっていて、そのエピソードは枚挙にいとまがないのだが、それに比べるとまだ1歳にもならず、性格的にも超やんちゃなアンディが、そう感じさせてくれる回数は、この頃はまだほんとうに少なかっただけに、セナのような以心伝心力をすでにこの頃に見せたことは大変衝撃的で、2匹目のアンディがセナクラスの愛すべきゴールデンレトリーバーに育っていくという確信をこのときはっきりと持った。今振り返っても驚きで、よほど私から鬼気迫るオーラが出ており、彼は事態の重大さをその前になんとなく自覚していたこともあって、かなり明確に伝わったのかなと実感している。

「シッポミュニケーション」はうれしくて振るシッポの動きだけの意味ではない。人と犬とのトータルなコミュニケーションのことを何とか伝えたいと思って使っている言葉である。そして犬とのコミュニケーションは、ほんとうに底が見えない奥深さを備えているのだ。

Photo
獣性が強いアンディはセナよりも敏感で、熟睡中のセナを撮ろうと思ってそっとスタンバイしたが、寝ていたアンディは、このように目の前ですぐに激しくシッポを振った

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マイペースに眠るセナとは対照的に、そーっとカメラを構えたにもかかわらず、「何してるの?」と言っているようにこちらをじっと見つめる若かりし頃のアンディ


著者紹介

池野谷 健二(いけのや けんじ)
Editor, Photographer, Writer, DTP Director
湘南・鵠沼在住
ken [at] dogphoto.jp ([at] を @ に変えてください)

出版社勤務を経てから平成2(1990)年に独立。様々な編集・制作業務に携わり、20年以上にわたる雑誌編集長のキャリアも持つ。現在はフリーとして活動中。

1997年、ゴールデンレトリーバーのセナ(♂)を飼い始めたことがキッカケで犬の撮影を始め、2002年に2匹目のアンディ(♂)も家族の一員に。それからは愛犬が生活の中心にいるという生活となる。2010年4月、初代のセナが亡くなり、2011年3匹目のディロン(♂)が家族に加わり、現在は2匹のゴールデンとともに暮らしている。

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