犬ごころ、人ごころ


あなたはイヌだから-2

2011年7月3日

前回、私はなぜか犬に好かれるということをいくつかの例を出して書いた。今回もそのことについて、もう少し補足したい。それは前回の例で登場した犬はすべてメスであるということだ。

100%とは言わないが、メスの犬には本当に好かれる。すぐに顔を舐めてきたり、甘えて私の横や前に鎮座したりとなついてくる。そこまであからさまな行動でなくても、初対面で近づいたときにアイコンタクトができてしまうのだ。そして飼い主に尋ねると、その犬がメスである確率が高いのだ。また、メスの飼い主さんによく言われるフレーズが「この娘は男の人が好きなのよ」である。

さらに、続けて次のようなフレーズが飛び出してくるケースも多い。
「家でも私より主人になついて、面白くないの」である。
私は「そ、そ、そうですか」としか言えないが、たんに人間性とか性格とかだけでなく、人のジェンダーと犬のジェンダーはそれぞれ目に見えない何かが、種を超えて微妙に絡まり合っていることは確実だろう。そして私が特にメスに好かれるのも、彼女たちが私のことを人としてなのか、犬としてなのか不明だが「コイツ、けっこうイイじゃん」とオスとして判断されているからだろう(私には愛犬アンディのオスのにおいがたっぷりと染みついているし、相棒の女性があなたは犬だからと言うから、実は犬のオスと見なされているのではないかと、かなり不安なのだが、私は人としてだと断固思いたい)。

もちろん、私はオスにもなつかれる。そしてオスに関してはちょっとした感動小話があるが、それはまたの機会に。ジェンダーの話もこのぐらいにして、ジェンダーフリーの方に話を進めることにしよう。

巷では当たり前のようにこんなことが言われている。
「ワンちゃんは頭がいいわね。その人が犬好きか、そうではないかを、すぐに見抜くからなつくのね」
これは俗説の域を超えて、すでに常識になっていると言ってもいいだろう。

しかし、私はこの論には単純にはくみしない。犬好きなだけでその人になつくほど、犬は奥行きがない生物でも幅がない生物でもなく、もっと誇り高い生物なのだ。犬に好意を持っているというのはあくまでその人のなかだけの世界観や感情にすぎず、確かにその人から好意が滲みでていれば、お互いのあいだにあるフィルターのひとつは少なくなるかもしれないが、それ以上でもそれ以下でもない。人見知りをまったくしない愛犬のセナもアンディも、 犬好きの人にならば誰にでもすぐになつくわけではなく、長年一緒にいるとこのことは大した理由ではないということを痛感する。

心底から犬が好きだなとこちらもはっきりとわかる人(女性が多い)や、私と同じような犬飼いの仲間に対して、笑顔で呼んでいるのに無視して素通りするシーンに何度遭遇したことか。逆に私が見てもなんか無愛想でとっつきにくそうだなという人(男性が多い)でも、無視せずに近づいていき、頭を撫でられたりしている。

考えてみれば「犬好き」という言葉は明瞭のようで実に曖昧模糊とした意味の言葉だ。たとえばその人は誰でもかわいいと思う子犬を「=犬」という意識で犬好きかもしれないし、育てたり一緒に暮らすことではなく、たまに遊ぶことだけで犬好きかもしれない。さらに、こちらの好き嫌いの感情抜きに、オヤツを持っていればたいがい犬がなついてくるのも現実であり、逆にたとえ真の犬好きであっても、強い化粧や香水のにおいを感じると、初対面ではなかなかなついてくれないのも事実だ。だから人間側が安易に語っている「犬好きなら犬はなつく」という常識にたいした意味はないのである。


大切なのは「犬ごころ」と「人ごころ」のコミュニケーションを、信頼関係が確実にともなった状態で、この人とはとれそうなのか、そうではないのかを、犬はすべてのセンサーを使って探っているわけで、それがある程度のハードルを越え、気分というスパイスを加味して判断し、「なつく」というカタチで表出しているのだと思う。

その上、別にそんな深い人間とのコミュニケーションを、どんな犬も求めているはずもなく、必要がなければ犬が反応しないのは当然だ。おそらく私の愛犬はこれに属すると思う。私たちとの深い深いコミュニケーションと信頼関係にまったく不足を感じてないから、ほかの人に足りない何かを求める必要がないので、優しくていい子なのに愛想が特別よいわけではないのだ。

それにしても、「あなたは犬だから」と言われるほど、なぜ私には犬がなつきやすいのかは、まだよくわからない。ただ、その理由を探り続けていくことと「犬ごころ」そのものに迫ろうとすることは、同一線上に存在していることだけははっきりしてきた気がするこの頃である。

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あなたはイヌだから……そうです。撮っているぼくはイヌだと思う

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内容とは関係ないが、最近海辺の散歩で意外な出会いが続いている。上はまだ生きているツノザメと遭遇。無事に沖にリリース成功。下左はダイナンウミヘビという魚類と遭遇、下右はアカエイで、この日は3匹も砂浜に打ち上がっていた。


著者紹介

池野谷 健二(いけのや けんじ)
Editor, Photographer, Writer, DTP Director
湘南・鵠沼在住
ken [at] dogphoto.jp ([at] を @ に変えてください)

出版社勤務を経てから平成2(1990)年に独立。様々な編集・制作業務に携わり、20年以上にわたる雑誌編集長のキャリアも持つ。現在はフリーとして活動中。

1997年、ゴールデンレトリーバーのセナ(♂)を飼い始めたことがキッカケで犬の撮影を始め、2002年に2匹目のアンディ(♂)も家族の一員に。それからは愛犬が生活の中心にいるという生活となる。2010年4月、初代のセナが亡くなり、2011年3匹目のディロン(♂)が家族に加わり、現在は2匹のゴールデンとともに暮らしている。

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