一人企業


“ほんやくコンニャク”を超えるひみつ道具

2010年11月30日

インターネットが普及し、ソーシャルメディアを用いたコミュニケーションが一般化しつつある今日、世界の距離は縮まったのでしょうか。

ことばの壁

かつて、インターネット、ファクシミリ、電話、飛行機がなかったどの時代も、世界はとても遠い存在でした。空間的な制約は、そのまま人と人のコミュニケーションの限界でもありました。飛行機を使って海外に出かけることができるようになり、情報通信技術が進歩し、インターネットが整備されるようになり、テクノロジーが世界の距離を少しずつ縮めてきました。

しかし、今日でも、多くの人にとって依然として立ちはだかり続けているのが「ことばの壁」です。とくに、多くの日本人にとっては、国際的に使われることが多いにも関わらず、英語でのコミュニケーションに苦手意識を持つ人が多くいるのが現状です。

科学技術がかつてないほどに世界の距離を縮めてくれたというのに、日本人のみならず、世界中の多くの人たちにとって、「ことばの壁」がコミュニケーションにおける心理的な距離を依然として大きく残しています。

テクノロジーの壁

しかし、テクノロジーが進歩して、地理的な移動が容易になり、データを高速で送信したりすることができるようになっても、テクノロジーが完全に“人間業(にんげんわざ)”を代替するまでは至っていません。

人間業というのは、筆者の大学時代の恩師がよく使っていたことばです。一般にいう「神業(かみわざ)」とは違って、コンピュータ科学分野におけるデータベースや知識ベースの研究領域では、「コンピュータは、神業は愚か、人間ができることも、まだほとんどできない」という認識があります。これが転じて、データベースを設計したり、検索結果などを評価したりする際に、人間的な直感に照らし合わせて「正しい」結果を得られているかという議論がよく交わされています(一方で、インターネットを通じて、瞬時に東京からニューヨークまでデータを送信できる技術は、いわゆる「神業」なのかもしれませんが)。

今日までのサイエンスとテクノロジーの進歩には目覚ましいものがありますが、人間が行うことのできる知的なコミュニケーション、例えば、想像力や創造力、感性などの領域を、機械が行うのは難しいのです。

自然言語解析などの研究が永年にわたり行われてきており、その優れた成果が出た結果、Google翻訳のような便利なサービスが利用可能になっています。しかし、私たちが日常的に行う「自然な」会話や翻訳にはなかなか追いついていないのが現状です。

ソーシャル時代のひみつ道具

今後、Google翻訳の精度が私たちの「人間業」に追いつくのには、まだしばらく時間がかりそうです。しかし、私たちがそれを待つ間に、もうひとつの現実的なアプローチを私たちは手にしています。それが、ソーシャルです。

ソーシャルメディアの仕組みを通じて、世界中の人がコミュニケーションをするなかで、例えば、友人からもらったブルガリア語のお土産に書かれている文字が読めないという状況にあっても、ブルガリア語と英語ができる人の存在を容易に見つけることができるのです。

Conyacは、私たちが子どもの頃に憧れていたドラえもんの「ほんやくコンニャク」をソーシャルの仕組みでシンプルに実現したサービス。

Conyacは、私たちが子どもの頃に憧れていたドラえもんの「ほんやくコンニャク」をソーシャルの仕組みでシンプルに実現したサービス。

東京発のConyacというサービスは、まさにこの仕組みを実現しています。Conyacを用いることで、世界中の人が自分の得意な複数の言語を使って翻訳者になったり、その人たちに対して気軽に翻訳をお願いしたりすることができます。

英語が得意な友人に対して「コーヒーを一杯おごるから、これ翻訳しておいてくれない?」と頼んだことがある人も、少なくないのではないでしょうか。申し訳なさそうにお願いをして、一方で、面倒に思いながらもボランティアに近い報酬で快諾してしまうような状況は、親しい友人関係であっても健全で持続可能な関係ではないでしょう。さらに、偶然英語が得意な友人が近くにいるという状況自体も、稀で幸福な状況なのかもしれません。

Conyacを用いることで、実際にスターバックスで一杯のラテをご馳走するのと同じ感覚(1文字0.9円)で翻訳をお願いすることができるのです。ブルガリア語でメッセージが書かれたマグカップの写真を投稿すると、1時間も経たないうちに、世界中の誰かが、あなたのために、コーヒー一杯分の翻訳を喜んで引き受けてくれます。これは、私たちが子どもの頃に憧れていたドラえもんの「ほんやくコンニャク」を「ソーシャルの仕組みで実現するとこうなるよ」ということをシンプルに示してくれているサービスなのです。

テクノロジーを活かすのは「人」

ソーシャルメディアは、その基盤が現実世界にあるのかサイバースペースにあるのかを切りわけるための概念ではありません。時間や空間的な制約を小さくして、コミュニケーションを円滑にし、コラボレーションをしやすくするための仕組みです。

テクノロジーが私たちの生活をよりよくしていくために重要なことは、テクノロジーと現実世界との接点をより効果的なものにし、テクノロジーが使われる場所において、いかに「人」が関わりやすくなっているか、という視点を持つことです。そういった意味では、現実世界のコミュニケーションをより人間的にするという意味で、Conyacはドラえもんのひみつ道具より優れた発明といえるかもしれません。ソーシャルメディアは、現実世界の延長上にある、とても人間的なメディアなのです。


著者紹介

高橋雄介

高橋雄介 (たかはし・ゆうすけ)

1980年生まれ。2003年 慶應義塾大学 総合政策学部卒業、2005年慶應義塾大学 大学院政策・メディ ア研究科修士課程修了。2008年同大学院後期博士課程単位取得退学。博士(政策・メディア)。2005年より同大学院研究員として、知識ベースシステム、マルチデータベース、ビジュアリゼーション、教育およびキャリア開発におけるデータベース利用に関する 研究開発 に従事(~2009年)。2010年11月、株式会社一人企業を創業。2013年2月、米国カリフォルニア州Mountain ViewにてAppSocially Inc.を創業し、CEOに就任。専門は、データベース、知識ベース、マルチメディアデータベース、顧客開発、および、 グロースハック。2013年4月より、米国シリコンバレー在住。

(株)清水弘文堂書房

TEL 03-3770-1922 FAX 03-6680-8464

link toお問い合わせ送信ページ

RSS Feed RSS