一人企業


Pinterestとソーシャルメディアとカルチャー・ストリーム

2012年3月5日

最近、Pinterest界隈が賑わいを見せている。Pinterestとは「バーチャルなピンボードで、ウェブ上で発見した美しいもの(主に好きな画像)を整理したり共有したりできる仕組みだ。他の人のピンボードを観て新しいものを発見したり、自分の興味のあるものを共有してくれた他の人からインスピレーションを受けることもできる」とPinterestにある

Pinterest界隈が賑わっている

Pinboard at Y Combinator
この賑わいの主な理由は、今年の2月上旬に月間アクティブユーザが1000万人を超えたことや、これがcomScoreによれば単一のウェブサイトがここまで成長するために要した時間として最速だということ、さらに、これまでに$37.5M(約30億円)もの資金を調達していることなどとされている。

そして、その結果、Pinterestに”見た目”や”機能”が類似したたくさんのウェブサイトが世界中に乱立している。

ぼくにとって、それらの違いはそれほど大きくない。そして、ぼくにとって、TwitterやFacebook、Tumblrと比べても、大差はない。Pinterestに関して、単純に機能についていうならば、Pinterestは、Twitterでできる”つぶやき”へのRetweetやFavorite、Facebookでできる”アクティビティ”へのLikeやShare、Tumblrでできる”記事”へのReblogやLikeを、Pinterest上に写真やビデオについて”Like”や”Repin”できる仕組みだ。Follow(Twitter、Tumblr)や(Followと同等の機能としてFacebook Pageへの)Likeと同様に、Pinterestでも、人や、その人の興味の一部(その人がつくった複数あるPinboardのうちの一部)をFollowすることができる。いわゆる、ソーシャルメディアである。

Pinterestを使う目的と期待

Pinterest screenshot
話が少しそれるかもしれないが、ぼくがFacebookを使う理由は仕事やプライベートで出会った友人たちと日常的に関わるためだ。彼らが興味を持っていることや彼らが自分をソーシャルメディア上でどう見せようとしているのかがわかるし、メッセージ機能を使えば、Eメールを書くのよりもずっとシンプルで効率的なコミュニケーションができる。Twitterを使う理由は、今その瞬間に友達や興味のある人や会社等が考えている内容を知ることができるためだ。TumblrはTwitterのようにBlogを使えるから使っている(他にも理由はあるけれど)。

何を言いたかったかというと、僕がここで改めて宣言するほどのことではないのだけれど、それぞれのウェブサイトやアプリを使うには特定の目的があって、そこに期待する成果もそれぞれ違うということだ。友達の近況を知るためにPinterestを開かないし、他人の食べた料理の写真を眺めるためにInstagramを起動しない。同じ理由で、PinterestにはPinterestを使う目的や期待があり、それ以外のソーシャルメディアにもそれぞれの目的や期待を持って使うということだ。

Pinterestに限っていえば、Pinterest自身が紹介しているように「ユーザのみなさんは、ウェディングプランづくり、自宅の飾り付け、大好きなレシピの共有などに使っている」ことが多いようだ。けれど、ぼくがPinterestを使う理由は、美しく撮影された写真からデザインや表現のインスピレーションを得るためだ。Pinterest自体のレイアウトが美しいことも、美しい写真のコンテンツを観るときに重要な要素となっている。

ソーシャルメディアの色

話は戻るが、この記事で紹介されているようにPinterestにたくさんのクローンがあったとしても、Pinterestが最も優れているという訳ではなくて、それぞれを使うのに目的や期待が違うのだ。そして、それは、個人や地域によっても大きく違う(例えば、日本のFacebookが米国のLinkedInのように使われていることがあるように)。

そこでぼくが期待しているアプリがある。このブログでも何度か紹介してきてる、ソーシャル・インタレストグラフに取り組んでいるi.ntere.st(Tattva)だ。昨年の3月にリリースされた後、先月リニューアルされた。装いはPinterestと似ている。

ぼくの印象としては、i.ntere.stには、これまでのところ、上記のTwitterやFacebook、Tumblr、Pinterestのような”色”はない。けれども素晴らしいチームで、優れたプロダクトをつくり上げている。これに加えて、Tattvaの高瀬社長が言うように「渋谷から日本が世界に誇るカルチャーを発信する媒介になる」ことができれば、少なくとも僕にとっては、素晴らしいことだと思う。Pinterestのような優れたデザインで、日本やアジアにおけるサブカルチャーの一つの聖地ともいえる渋谷の情報が集約されて発見できるようになるのだ。

ぼくがi.ntere.stに期待する理由は、高瀬社長が言うとおりに、いろいろなソーシャルメディアが存在するなかで、カルチャーについて知りたいとき、とくにぼくらが大好きな、ぼくらの国の渋谷のカルチャーについて知りたいときに、まずi.ntere.stを観るというようなアプリに今後育っていってくれたら、国内のみならず、海外から日本に来る旅行者にとっても素晴らしいと思うからだ。

話が少し逸れるけれど、データベースの検索結果の精度についても同じことがいえて、これは経験則だけれど、分野を絞って内容の濃いデータベースをつくった方が、その分野の情報を検索したり、知識を共有したり発見したりするための優れたデータベースをつくることができる。

カルチャー・ストリーム

i.ntere.stでは(期待をこめてイメージを膨らますならば)、ぼくが好きな渋谷の単館系ミニシアターの上映作品を選ぶ担当者が普段どのような映画(DVDなど)を観ているかについて知ることができるし、そこから辿って、そのミニシアターで上映されている映画が好きな他のユーザや、その映画の監督が読んでいる本なんかも知ることができる。渋谷でプレイするぼくの好きなDJがiTunesやBeatportで買っている音楽を知ることもできるし、その人が最近購入した好きなスニーカーを知ることもできる(と良いと期待している)。

ミニシアターの担当者やDJに関連した一つの人格というか、その人格が生み出す一筋の興味関心情報のストリームが緩やかに束になりながら拡がっていって一種のカルチャーを形成していく様は、きっと渋谷という街から(あるいは秋葉原という街も同じかもしれないけれど)一つのサブカルチャーが形成されていった様相と同じなのではないかと思う。

ぼくは、この現象を、「カルチャー・ストリーム」と呼んでいる。「カルチャー・ストリーム」という考え方は、「今日のカルチャーは、ソーシャルメディア上をリアルタイムで流れていく情報やデータのストリーム(とめどなく流れてくる情報)が緩やかに拡がっていくところに、時代や地域に制限されない新しいカルチャーが生み出されているのではないか」というぼくなりの観察と仮説に基づいている。これまでのようなサブカルチャーとメインストリームといった対立構造ではないカルチャー形成のあり方が、可能になりつつあるのではないだろうか。

渋谷のサブカルチャーとi.ntere.stがハブになってくれたら良いと期待しているカルチャー・ストリームの大きな違いは、それがより小さなサイズであっても、明示的に、具体的な人数をともなって形成されやすくなっている点にある。ぼくはサブカルチャーの専門家ではないのでこれ以上深い議論はできないけれど、i.ntere.stが、経済的な規模や関わっている人の人数に関係なく、自分の好きなカルチャーを表現したり、共有したり、探したり、発見したりしやすいアプリになってくれたら、素晴らしいと思う。

そして、ある強力な個性をもつ個人の興味がソーシャルな関わりの中で「カルチャーストリーム」を形成していくプロセスに共感する他者として関わることができたり、ぼくがそこに貢献したこと自体が可視化されて記録されていったら、少し視点を変えてみると、これは社会学や人類学的な重要なアーカイブをリアルタイムでモニター、レコーディングしながら形成していくことにもなる。

「カルチャーストリーム」は、複数の人が影響をし合いながらカルチャーを形成していくなかに漂う「空気感」のようなものだから、そこで関わっている「人」や「人たち」の興味や身につけているものや大事にしているもの(消費・購買行動)なんかを、「空気感」を損なわずに形式知として可視化することは、とてもチャレンジングだし、ぼくのこの期待に共感してくれる人も多いのではないかと思う。

だから、Tattvaが取り組んでいるi.ntere.stというプロダクトをつくる仕事そのものについても、ここからが最もクリエイティブで楽しくて仕事に恋してしまうくらい骨折り甲斐のある時間になるのではないかと勝手に想像をしている。

期待

でも、難しい議論はさておき、繰り返しになるけれど、ぼくの希望はシンプルだ。大好きなミュージシャンがミュージシャンになろうと決めるきっかけになった一枚のビニールのレコードを売っている渋谷のレコード店を知りたい。そして、そのレコードショップの店長が聴いている音楽やファッションについて知りたいし、その店長が音楽を楽しむために足を運んでいるライブハウスやバーを知りたいし、そのバーで定期的に音楽をかけているDJが通っているギャラリーでインスタレーションをしているメディアアーティストについて知りたい。そして、そのメディアアーティストの方と出会うきっかけになった一枚のレコードについて、ビールを飲みながら語らうことができたら、最高だと思う。こいうことの実現を支援してくれくれるアプリを、僕はまだ知らない。


著者紹介

高橋雄介

高橋雄介 (たかはし・ゆうすけ)

1980年生まれ。2003年 慶應義塾大学 総合政策学部卒業、2005年慶應義塾大学 大学院政策・メディ ア研究科修士課程修了。2008年同大学院後期博士課程単位取得退学。博士(政策・メディア)。2005年より同大学院研究員として、知識ベースシステム、マルチデータベース、ビジュアリゼーション、教育およびキャリア開発におけるデータベース利用に関する 研究開発 に従事(~2009年)。2010年11月、株式会社一人企業を創業。2013年2月、米国カリフォルニア州Mountain ViewにてAppSocially Inc.を創業し、CEOに就任。専門は、データベース、知識ベース、マルチメディアデータベース、顧客開発、および、 グロースハック。2013年4月より、米国シリコンバレー在住。

(株)清水弘文堂書房

TEL 03-3770-1922 FAX 03-6680-8464

link toお問い合わせ送信ページ

RSS Feed RSS