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未来の教科書

2011年2月7日

今回は、ひさしぶりに筆者の大学時代の研究について紹介します。

社会の勉強は大変

日本で教育を受けたみなさんのほとんどは、小学校から高等学校に至るまでの期間に、社会科を勉強した経験があると思います。筆者が学生の頃には、中学校であれば、地理、歴史、公民を、高等学校であれば、地理、世界史、日本史、政治経済などが社会科の教科となっていました。

覚えているのは、社会の醍醐味や歴史の躍動感を学ぶという知的好奇心にかられたものではなく、とにかく大変だったということです。例えば、記憶しなければならない情報量の多さ、教科書に加えて、分厚い資料集や用語集を常に携帯しなければならない不便さ、教科書に沿って学んでも事象や地理的な関係が非同期で順不同なために、別途理解や編集が必要であったことなどがあり、これらが、多くの人にとって社会科が嫌いになる原因だったのではないでしょうか。

特に、最後にあげた編集能力がまさに大学受験で問われていました。たくさん記憶して、さらにそれを編集して、記述するといったことが求められる社会科は、具体化や抽象化のスキルを求められる理科や数学に比べて、効率の悪い教科にさえ見えていました(もちろん、情熱的な先生との出会いに恵まれれば、社会を好きになることもあるでしょうが。筆者も高校時代の恩師のおかげで世界史だけは大好きでした)。

未来の教科書

こうした現状を、テクノロジー、特に、筆者の研究領域としての「知識ベース」の技術を用いて進歩させようというのが「未来の教科書」プロジェクト[1] [2]でした。

図1. 未来の教科書のプロトタイプ

図1. 未来の教科書のプロトタイプ

知識ベースシステムというのは、専門家の知識をデータとして表現して、それを用いてデータの評価を行うことで、データベースの専門的視点での検索、蓄積、表現などを実現するデータベースシステムです。簡単に表現するなら、あなたがGoogleで時事問題について検索をする際に、あなたの隣で池上彰氏が読むべき重要な検索結果を選んで教えてくれるといった状況を、技術で実現しようというのが知識ベースシステムです。

未来の教科書プロジェクトは次のような解決策を提示してプロトタイプを開発しました。

  • 対象とする情報源を無制限にする。例えば、教科書、資料集、用語集、参考書、Wikipedia、さらに随時更新される現代史についてのニュースなど、教科書に限らない任意の歴史的事象に関する文書を対象として扱う
  • 動的計算機能を搭載する。例えば、使用する学生の検索意図や学習目的に合わせて、時代や地域、テーマなどに沿って、さまざまな関連するデータを編集したり、比較したり、ビジュアライズできるようにする

図2. 元素図鑑上のCuのページ

図2. 元素図鑑上のCuのページ

これは、これまでの歴史に代表される社会の教科書が、非同期時代別、地域別、テーマ混在(政治史、経済史、文化史など)であり、内容も出版された時点での設計、編集されたものであり、通時的(=地域別)、共時的(=時代別)、同義的(=テーマ別)な歴史認識や理解、学習が難しかったという問題を解決するものです[3]

具体的には、例えば、歴史の学習や研究には、「17世紀日本において江戸幕府が鎖国政策をしいていたときに、世界では何が起こっていたのか」といった共時的な分析が重要です。または、例えば、「インドネシアの古代史から現代史を通して、『貿易』という観点から概観する」といった通時的な分析も重要です。

図3. Qwikiで「ナポレオン」を調べる

図3. Qwikiで「ナポレオン」を調べる

この、当時「未来」の教科書と呼んだ研究プロジェクトの成果は、いまだプロダクトとしては公開をしていません。しかし、これ以外にも、世界中にさまざまな「未来」を実現する教科書が公開されています。例えば、インタラクティブに化学を学ぶことができるiPadアプリである『元素図鑑』や、Wikipedia上の記事を音声つきのビデオ形式で閲覧することができるQwikiなども、同じようにテクノロジーにより教科書を進化させるものです。

メディアやツールの進歩が知的な進化を導く

前述のように、今日の社会科の教科書は、学習効率を下げ、学習意欲をそぐような形態です。しかし、テクノロジーを用いて、新しい未来の教科書を創ることができれば、これまでにできなかったような未来を実現することができます。

メディアやツールの進歩が、知的能力の進化を導きます。しかし、それだけでなく、社会科が大好きな子どもたちをたくさん生むこともできるはずです。

  1. [1]高橋雄介,佐々木史織,清木康:“意味的時空間的分析機構を有する4次元世界地図描画システム”, 電子情報通信学会 信学技報, vol. 108, no. 211, DE2008-43, pp. 27–28, 2008.
  2. [2]Sasaki, S., Takahashi, Y. and Kiyoki, Y.: “FUTURISTEXT: THE 4D WORLD MAP SYSTEM WITH SEMANTIC, TEMPORAL AND SPATIAL ANALYZERS,” Proceedings of IADIS INTERNATIONAL CONFERENCE E-SOCIETY 2008, ALGARVE, PORTUGAL, pp.162–170, 2008.
  3. [3]筆者が恩師の講義内で行った講演のスライド資料に詳しく紹介してあります。

著者紹介

高橋雄介

高橋雄介 (たかはし・ゆうすけ)

1980年生まれ。2003年 慶應義塾大学 総合政策学部卒業、2005年慶應義塾大学 大学院政策・メディ ア研究科修士課程修了。2008年同大学院後期博士課程単位取得退学。博士(政策・メディア)。2005年より同大学院研究員として、知識ベースシステム、マルチデータベース、ビジュアリゼーション、教育およびキャリア開発におけるデータベース利用に関する 研究開発 に従事(~2009年)。2010年11月、株式会社一人企業を創業。2013年2月、米国カリフォルニア州Mountain ViewにてAppSocially Inc.を創業し、CEOに就任。専門は、データベース、知識ベース、マルチメディアデータベース、顧客開発、および、 グロースハック。2013年4月より、米国シリコンバレー在住。

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