d beauty of 9ja ― 魅するもの、ナイジェリアから


イヤ・アラロ

2011年10月29日

2011年7月4日 オショボ オケ・ポポのイヤ・アラロの自宅まえにて

隣街のオショボに、藍染め工房がある。と言っても、土壁とさびついたトタン屋根の古い家屋に囲まれた空き地に、土器製の坪や道具がいくつか、細い木と竹で支えられたツギハギだらけの屋根の下で寄せてあるだけの場所。ワンピース用のいくつもの布を藍色に染めたいわたしは、専門は絵画だが伝統的な藍染めにも興味を持っているアーティストのパパケイを誘って、この工房をこれまで何度も一緒に訪れている。

藍色に深く染まったしわしわの手をふって迎えてくれるのは、工房の主、イヤ・アラロ(ヨルバ語で「藍染めのおばさん」)。最初は「金持ちのガイコク人とその付き添い人」だと思われていたようだけれど、足しげく通ううちに、「伝統的なものに興味しんしんの娘と息子」のようにわたしたちを迎えてくれるようになった。古いものならなんでも好きなのかと思っているのか、自作の藍染めの布だけではなく、40年まえの織り布や、かつて染料としてつかっていた老木も家の奥から持ち出してきて、昔話をしてくれる。

「ぼくの母親にどこか似てるんだよね」
パパケイはそっとわたしに言った。肝がすわっていて強気だけど、ユーモアとあたたかさに溢れるイヤ・アラロ。昔話をしてくれたあとには、「で、これも買うかね?」と、ちゃんと商売っ気を忘れないところも憎めない。

Photo
カムウッドに水分をふくませ、赤褐色の染料をとりだすところを実演してくれるイヤ・アラロ。カムウッドはアフリカビャクダンともいい、西アフリカ産のマメ科の高木(Baphia nitida)。かつては赤色染料として、化粧などに使われていたという。わたしたちが藍染めのためにオショボまで行くのは、3、40年まえまではイフェの街にいくつもあった工房が、現在はひとつもないからだ。輸入された布や洋服が増え、伝統的な布の流行も少しずつ変化していき、藍染めの布や糸の需要は減った。いまでは、藍染めの工房には、色褪せたジーパンを濃くしたい人、大都市で観光客に売る「アフリカ的」な染めの布やデザイン・シャツをつくるアーティスト、伝統宗教の儀礼に藍色の糸を必要とする人たちからの依頼がわずかにあるくらいだ。
2011年7月4日 オショボ オケ・ポポのイヤ・アラロの自宅まえにて

(毎週土曜日更新)



著者紹介

緒方しらべ

緒方しらべ (おがた・しらべ)

1980年島根県に生まれる。18歳まで福岡県で育つ。ロンドン大学東洋アフリカ学院(SOAS)にて学士課程をへて、2005年に同大学院修士課程を修了。2007年より、総合研究大学院大学文化科学研究科にて博士後期課程に在籍。

2003年以来ナイジェリアでフィールドワークに従事し、造形活動にたずさわる人びとをテーマに研究をおこなっている。

(株)清水弘文堂書房

TEL 03-3770-1922 FAX 03-6680-8464

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