d beauty of 9ja ― 魅するもの、ナイジェリアから


Up NEPA!

2011年3月19日

コンクリートの床に転がって涼んでいると、向かいの部屋のトスィンがやって来てドアをノックした。つけ毛をほどくのではさみを貸してほしい、と。

風通しのよい玄関の階段に腰かけ、自毛に編みこんだつけ毛をひとつひとつほどいていくトスィン。ひんやりと気持ちのよい階段にわたしも座ってみる。電気が来ないとこの暑い午後に扇風機をまわせない。

大学の試験の話、彼氏の話、それから実家の話になって、トスィンは目を輝かせて言った。テクノロジーの国、日本のことをもっと聞かせてよ、と。

日本の「不自由のなさ」を話すと、彼女は笑って言った。この国で「アップ・ネパ(Up NEPA)!」を知らずに育つ子どもなんていないわ、と。

「アップ・ネパ!」とは電気が復旧した瞬間に光を浴びて発せられるナイジェリア国民の合言葉。日に何度も、あるいは数日ぶりに、ときには数週間・数か月ぶりに耳にする。

不便さといらだち、そしてここで生き抜くみんなのつよさと明るさを身に染みこませながら、ぽかりと自国を思った。便利さの果てには何があるのだろうか、と。

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つけ毛をほどくトスィン。ネパとは、ナイジェリアの電力会社名の略称(NEPA=National Electric Power Authority)。ネパは2005年にPHCN(Power Holding Corporation of Nigeria)に改名したが、いまでもネパという言葉は国民に親しまれており、停電すれば、落胆して失望に溢れた「あ~あ、ネパ……」の声が発せられる。復旧すれば「やったーネパ! 電気が戻った (アップ・ネパ)!」という歓喜と希望に満ち溢れた声が起こり、自家発電機のある家の近辺では騒音がただちに消え、テレビや音楽プレーヤーから華やかな音がしてくる。ちなみに、ネパとは「電気なんて決していつも期待できるようなもんじゃない(NEPA=Never Expect Power Always)」の略であると、ナイジェリア国民は皮肉を言う。なお、ナイジェリアはおもに水力発電を利用。
2010年5月22日 イフェ、モダケケ地区の下宿にて

(毎週土曜日更新)



著者紹介

緒方しらべ

緒方しらべ (おがた・しらべ)

1980年島根県に生まれる。18歳まで福岡県で育つ。ロンドン大学東洋アフリカ学院(SOAS)にて学士課程をへて、2005年に同大学院修士課程を修了。2007年より、総合研究大学院大学文化科学研究科にて博士後期課程に在籍。

2003年以来ナイジェリアでフィールドワークに従事し、造形活動にたずさわる人びとをテーマに研究をおこなっている。

(株)清水弘文堂書房

TEL 03-3770-1922 FAX 03-6680-8464

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