d beauty of 9ja ― 魅するもの、ナイジェリアから


父はいつもいる

2011年2月12日

兄に手を引かれて幼稚園から帰ると、いつも父が玄関の扉を開けてくれる。それでわたしは決まって言う、お腹がすいたと。父はアトリエの机の引き出しから10ナイラ札(約6円)を取りだして、姉に渡す。姉はわたしの手を引いて、隣の店で棒つきキャンディーや炒りピーナッツを買ってくれる。

ほおばりながらアトリエに入ると、筆を握った父にいつも言われる。着替えてきなさいと。姉に制服を脱がせてもらって、普段着を着せてもらうとまたアトリエへ行く。おやつを散らかさなければ、そこで寝そべってもたいてい怒られない。いつの間にか目が覚めると、父はまだ紙に色を塗っている。

だんだん外が暗くなるころ、いつも父はバイクに乗って出ていく。姉たちと遊ぶのがたのしいから、行ってらっしゃいを言い忘れることもある。でもお帰りなさいはかならず言う。父のバイクの音がして、父の後ろに座る母が見えたら。

また目が覚めて、幼稚園へ行く時間になった。父はいつもわたしの片腕をつかんで、バイクに乗せてくれる。ガソリンタンクの蓋のすぐ手まえ、一番まえの特別な席。背なかで父がささえてくれているから、ちっとも怖くない。

Photo
イーゼル(画架)にのせた画用紙に鉛筆でスケッチする父のそばを離れないパパケイの三女オペ。母親は街の仕立屋で働いているので、父親と過ごす時間のほうがオペにとって長い。2009年10月9日 イフェ、モーレ地区のパパケイの自宅兼アトリエにて

(毎週土曜日更新)



著者紹介

緒方しらべ

緒方しらべ (おがた・しらべ)

1980年島根県に生まれる。18歳まで福岡県で育つ。ロンドン大学東洋アフリカ学院(SOAS)にて学士課程をへて、2005年に同大学院修士課程を修了。2007年より、総合研究大学院大学文化科学研究科にて博士後期課程に在籍。

2003年以来ナイジェリアでフィールドワークに従事し、造形活動にたずさわる人びとをテーマに研究をおこなっている。

(株)清水弘文堂書房

TEL 03-3770-1922 FAX 03-6680-8464

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