d beauty of 9ja ― 魅するもの、ナイジェリアから


美術と魔術

2010年3月6日

午後4時前、下宿先を出て祭りの会場へ向かった。会場で作品をたくさん売るから見においでと、彫刻家のジョナサンがわたしを誘ってくれた。毎年6月にイフェでおこなわれるこの祭りは、イファというヨルバの土着信仰を祝う。この信仰は、ナイジェリア国内はもちろん、かつてヨルバの人びとが奴隷貿易で渡った南北アメリカ、カリブ諸島にも受け継がれていった。しかしキリスト教やイスラム教の影響により、現在、ナイジェリアでのイファ信仰はマイノリティである。

木に彫られたヨルバの神々の姿や象徴は、崇拝の対象として、また儀礼の道具として、イファ信仰に欠かせない。この日、イファの信者たちは国内他州からも、ブラジルからも来ていた。彼らがもとめるジョナサンの木彫は、とぶように売れる。その様子を撮影するわたしが乗った不安定な椅子を、ジョナサンの奥さんが支えてくれている。この長い椅子には、イファ信者のおじいさんたちも腰かけていた。めずらしそうに辺りを見まわすわたしにほほえみかけたり、おじいさん同士、話に花を咲かせたりしている。けれど奥さんは言った。 
「気をつけて。この人たち、ジュジュを使うんだから」

ナイジェリアをふくむ西アフリカでは、土着信仰の信者たちがジュジュと呼ばれる魔術をつかうと信じられている。その力は願掛のためだけではなく、恨みや妬みの対象に災いをもたらすためにも使われるため、しばしば人びとは魔術を恐れる。

純白や原色の衣に、茶・緑・朱をはじめとする色とりどりのビーズを身にまとう信者たち。台の上にいくつもならべられた艶やかで迫力のある木彫を手にとっては、ジョナサンと値段交渉をはじめる。雨季の夕方、かたちを変えて流れてゆく白や灰の雲のあいだから、西日が射しこんでは木彫の艶にあたる。そこに光って見えるのは、美術なのか、魔術なのか。活気づいたジョナサンの露店を、わたしは夢中に撮っていた。

Photo
にぎわうイファ祭の会場、ジョナサンの露店の横で話に花を咲かせるイファの信者たち。
2009年6月6日 イフェ、イロデ地区エヌワにて

(毎週土曜日更新)



著者紹介

緒方しらべ

緒方しらべ (おがた・しらべ)

1980年島根県に生まれる。18歳まで福岡県で育つ。ロンドン大学東洋アフリカ学院(SOAS)にて学士課程をへて、2005年に同大学院修士課程を修了。2007年より、総合研究大学院大学文化科学研究科にて博士後期課程に在籍。

2003年以来ナイジェリアでフィールドワークに従事し、造形活動にたずさわる人びとをテーマに研究をおこなっている。

(株)清水弘文堂書房

TEL 03-3770-1922 FAX 03-6680-8464

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