犬ごころ、人ごころ


ドッグイヤー/冷徹な運命②

2011年1月5日

悔いがない幸せな一生を私がまっとうさせる

まだ生まれて間もないのに、こんなに幼く可愛いのに、自分より先に逝ってしまうという重い現実、冷徹な運命。前回このことについて書いたが、なにも楽しい子犬との生活が始まったばかりなのに、そんな悲しいことを思う必要なんて全然ない、考えたくもないと普通は言いたくなるだろう。お前はなんてネガティブなヤツだという非難も聞こえてきそうだ。それは至極当然のことで、わたしだってそう思う。シンプルに眼前のカワイイ子犬を飼い、イヌとの生活を楽しんでいくべきだと思う。

ただ子犬を飼う初心者だった私の場合は、自分で信じられないぐらいカワイイと思ってしまい、おまけにコイツを失いたくないと必要以上に強く強く思ってしまったから、かえって私はこの冷徹な運命を、早い段階で明瞭に視界に捉えてしまったのかもしれない。

それから約12年半後、昨年その冷徹な運命は、当たり前のように私たちを襲った。そう、私にとって初めての愛犬「セナ」は静かに息を引き取った。精神的にだいぶ落ち着いた今、あの頃、早い時期にそんな悲観的なことを考えてしまったことに想いを馳せてみた。

そう思ったことに対する後悔はない。あまり難しいことを考えずに能天気に愛犬と暮らすよりは、個人的にはかえってよかったとも思っている。この運命を受け入れようと覚悟を決めてから、自分の内面でいろんな変化が起こり始めたと前回記したが、この変化が起こったおかげで、願ったことが最低限叶ったからだ。それは……
「犬に悔いを残させない、人は悔いを残さない」
である。

要するに「セナ」も私も、いっしょに過ごした限られた時間を精一杯、幸せにまっとうできたと思う。

では早い段階での運命の受容が私の内面にどんな変化を起こしたのか。

一番大きな変化は、余命が10年強しかない子どもを持った親の気持ちのような心情にすぐに変化していったことだろう。セナとの幸せに満ちあふれた生活は、だいたい10〜14年後に終わりを迎えてしまう。この子の短い生をいかに充実した幸せなものにしていくか、そして1秒でもその時間を長続きさせるか、飼い始めてまだそれほど時が経ったわけではないのに、すべてがこの一点に集約していった。

表情をデレデレに崩してセナと遊んでいるときも、怖い形相でセナを叱りつけているときも、頭のなかからその想いが消えることはなかった。どんなときも……。また、そもそもセナにとって、犬にとって、幸せとは何なのかも、同時にどんどん突き詰めて考えていった。

そういうふうに思ってしまったということは、私のなかでセナはあっという間にペットという域を超えて、自分の子どもになってしまったということもできるだろう。そしてその変化は結果として、私を人間的にも成長させてくれた。

腰がさらに据わった、足がもっと地に着いた、優しい気持ちが多くなった、その時、何が大切なのか、迷いが少なくなったなどなど、すこしはまともな人間に近づいたような気もする。そしてなによりもセナに幸せな一生を、私と相棒の女性でまっとうさせるという強い意志が培われたことも大きかった。

ここまでの自分の人生において漫然と過ごしていた1分1秒を、次第に大切に思うようにもなり、だらしない行動もだらけた意識も徐々に少なくなった。エサをあげる、散歩をするなどの犬を飼うという行為は、時を重ねるに従ってどんどんルーティーンな日常になっていくものだが、初期の頃に冷酷な運命を自覚したおかげで、私にはそういう変質はまったくといってほど起こらなかった。

お出かけするなどのスペシャルな行為でなく、ごくごく平凡な日常生活であっても、いつも無理なく集中できたし、新鮮さも楽しさも最後まで失わなかった。私においては冷酷な運命を受容したことが大きく影響していることは確かのようである。

現在は残った「アンディ」だけとの生活が続いているが、セナを失った喪失感と健全につき合いながら、犬との日常がルーティーンに陥ることもなく、「セナ」のときと同じように輝いた犬との生活を過ごすことができていることを心の底から悦んでいるとともに、それができるようにしてくれた「セナ」に深く深く感謝している次第である。

Photo
水もしたたる:セナのウェットで柔らかな視線は誰のこころにも響いてくる

Photo
ポリポリ:成犬となったセナは、足で掻くときもレンズを持つ私を見てくれるようになっていた


著者紹介

池野谷 健二(いけのや けんじ)
Editor, Photographer, Writer, DTP Director
湘南・鵠沼在住
ken [at] dogphoto.jp ([at] を @ に変えてください)

出版社勤務を経てから平成2(1990)年に独立。様々な編集・制作業務に携わり、20年以上にわたる雑誌編集長のキャリアも持つ。現在はフリーとして活動中。

1997年、ゴールデンレトリーバーのセナ(♂)を飼い始めたことがキッカケで犬の撮影を始め、2002年に2匹目のアンディ(♂)も家族の一員に。それからは愛犬が生活の中心にいるという生活となる。2010年4月、初代のセナが亡くなり、2011年3匹目のディロン(♂)が家族に加わり、現在は2匹のゴールデンとともに暮らしている。

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