犬ごころ、人ごころ


大型犬を飼う私たちは災害弱者の一員

2011年3月15日

まさにこの原稿を書きはじめたときにそれは起こった。M8.8と(その後、M9.0に修正)いう国内観測史上最高のエネルギーを記録した「東北地方太平洋沖地震」である。幸い、私たちには被害がなく、長周期の揺れに翻弄されているときは、人間の方は立ち上がってすこし緊張していたが、うちのアンディは驚きもせずに、半分寝ぼけマナコでこちらを見ていた。大物なのか、能天気なのか、ただ地震探知犬になれないことだけは確かだろう。まあ、こちらの様子をよく見ている犬だから、私たちの緊張感が著しかったら、おそらくアンディも同じように緊急事態らしい行動をとったことだろう。

そしてひとまず揺れが収まったところで、私と相棒の女性は近所の犬友だちに連絡した。昼間はひとりぼっちでお留守番しているはずのJちゃんのパパにだけ、奇跡的に携帯電話がつながり、ほかの人にはもうすでにつながらなくなっていた。彼に合鍵がどこかに置いていないか訪ねたが、残念ながら置いてないということなので、私はとりあえず様子を見るために、すぐに自分の引き綱(リード)を持って、歩いて3〜4分の彼の家に走った。

外にはかなりの人が飛び出していた。呆然としている外国人の男性、子どもを抱え不安そうな表情でクルマのドアを開けて座りこんでいる若いご夫人、ガチャガチャという割れた食器を片づける音も耳に飛びこんできた。そして緊張しながら、彼の家の敷地に入り、窓からなかの様子をうかがった。しかしカーテンが閉められ、暗い部屋の中はほとんど見えず、しばらく目を凝らしてみていたが、犬影が動く光景も見ることはできなかった。心配になったが、本棚や食器棚が倒れている様子はなかったので、仕方なく家に戻った。

帰り道でけたたましく鳴る大津波警報と防災放送を聞き、まだ引っ越してきて間もない若い家族2組が、子どもとご夫人二人で路地に不安そうに佇んでいて避難のことを質問された。それに答えて戻ると、連絡がとれないので私たち二人は、すぐにアンディの散歩をかねて近所の犬友だちの家をすこし回ることにした。たいがいのご家庭は、昼間愛犬とご夫人だけで、飼い犬が老犬のご家庭もあるからだ。ご不在のお宅がほとんどだったが、幸い大きな被害も問題も起こらなかったようで、ほっと胸をなで下ろした。

1〜2日後、犬友だちに愛犬たちの様子を聞いてみると、揺れた瞬間に玄関に走っていった小型犬、一人で留守番していて、帰ってみるとブルブル震えていた中型犬、しばらく排泄しなくなってしまった犬もいる。地震は犬にも大きな恐怖やストレスを与えるが、能天気に横になっていたのは、どうやらアンディだけだったようだ。

今回、自然災害の恐ろしさと人間のちっぽけさを、改めて思い知らされたわけだが、前回、台風のなかの散歩について記したことが、不謹慎で自然をなめていると自然の神様の逆鱗に触れてしまったのかと、自省している次第である。

ただ、犬飼いにとって「災害」というのは、実はとても重く、避けてはいけない普遍のテーマである。セナを飼い始めたときからもう何十回このことについて、相棒の女性や犬友だちとのあいだで話題にしたりシミュレーションしたことか。今回の未曾有の災害に接して、改めて深く考えさせられる日々が続くことだろう。

犬は基本的に避難所に入れない。つまり、愛犬を置き去りにして自分たちだけ避難することを求められてしまうという重い現実が横たわる。仮に避難所に入れても、たいていは小型犬のみで、しかも通常ケージ(檻)に入れることが義務づけられる。うちのようにケージを利用していない犬たちにとって、それはまさに監獄のようなもので、また愛犬用の食料が提供されるわけでもなく、おまけに私たちが愛犬のすぐ横に陣取れる保証も自由もないから、人犬ともにそのストレスも計り知れない。要するに愛犬家にとって、避難所にいる意味はそんなに大きくないと思っている。知り合いの市会議員や市長にもこの件を改善するように言ったこともあるが、結局いまだに何も変わっていないのが現状だ。

だから避難命令が出ても、もちろん状況を鑑みてだが、拒否して家に居座るか、幸運にも庭があるので、そこで愛犬と離れずにキャンプしようと相棒の女性と決めている。周囲の犬友だちも愛犬と別れるなんてありえないという人ばかりだから、賛同者がほとんどで、いざとなったら力を合わせて一緒にキャンプしようかと言っているほどだ。愛犬家、特に大型犬の飼い主は、こういう場合、完全に災害弱者となってしまうからこそ、できるだけ自助共助することを心がけているのである。

セナが若い頃、私たちが特にそういう考えで盛り上がったときに、犬のフードの備蓄や、犬用の災害グッズセットの作成、普段も使う機会があるキャンプセットもそろえたりした。しかし、幸運にもそれを災害時に利用することもなく、それから10年以上の時間が流れ、この件を見直すこともせず、セナもこの世を去ってしまった。今回の震災に接し、もう一度自身のため、犬のための危機管理を見つめ直そうと強く思った次第である。

Photo
大震災翌日の夕方、大津波警報がまだ発令中だった近くの海の様子。少し海面が上がっているような気もするが……。シャッターを切った直後に警察官に注意されて退散しました。


著者紹介

池野谷 健二(いけのや けんじ)
Editor, Photographer, Writer, DTP Director
湘南・鵠沼在住
ken [at] dogphoto.jp ([at] を @ に変えてください)

出版社勤務を経てから平成2(1990)年に独立。様々な編集・制作業務に携わり、20年以上にわたる雑誌編集長のキャリアも持つ。現在はフリーとして活動中。

1997年、ゴールデンレトリーバーのセナ(♂)を飼い始めたことがキッカケで犬の撮影を始め、2002年に2匹目のアンディ(♂)も家族の一員に。それからは愛犬が生活の中心にいるという生活となる。2010年4月、初代のセナが亡くなり、2011年3匹目のディロン(♂)が家族に加わり、現在は2匹のゴールデンとともに暮らしている。

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