d beauty of 9ja ― 魅するもの、ナイジェリアから


「ダディ、エビンパミ」

2011年9月3日

2009年9月30日 イフェ、モーレ地区のパパケイの自宅にて

高い声で犬が吠えて、扉をドンドンたたく音。午後3時過ぎ、娘たちが学校から帰ってきた。「ただいま」と言いながらアトリエに入ってきて、一言。
「パパ、おなかすいた」

ぼくは引き出しから小銭をとりだして長女に渡す。妹たちと一緒に買っておいで、と。渡せない日もある。飴玉ふたつ、ピーナッツ15粒ほど、小カップ1杯のキャッサバ粉。このうちのどれかをひとつ選ぶ。きょう2度目の食べものをうれしそうにほおばる娘たち。ぼくは何をしているんだろう。

この職業に憧れていたわけじゃない。ほかにやれることなんかなかった。ただ描くことが好きだった。気づけばぼくは、アーティストになっていた。家族をちゃんと養いたい。50歳はもう目のまえだ。

でもどうやって? ――神さま、ぼくに力をあたえてください。

Photo
保育園から帰ってきてすぐ、小さいカップ1杯ぶんのガリ(キャッサバ芋の粉を水でひたしたもの)を飲むパパケイの三女オペと、できあがったばかりのパパケイの作品(カトリック教会におさめるレリーフ彫刻)。ガリは「貧困の食」ともいわれ、ナイジェリアで手に入るもっとも安い食べ物である。アーティストのパパケイに安定した収入はなく、借金に頼りながら、その日暮らしで妻と5人の子どもたちを養っている。「ダディ、エビンパミ (Daddy, ebi n pa mi)」とは、子どもたちが父親に毎日言う言葉で、「パパ、おなかすいた」の意味。イレ・イフェのアーティストのなかには経済的に成功している者たちもいるが、そうではない者たちのほうが多い。彼らは生活に苦しみながらも、神に祈り、親戚や友人たちと持ちつ持たれつ暮らしていき、アーティストでありつづけるのだ。
2009年9月30日 イフェ、モーレ地区のパパケイの自宅にて

(毎週土曜日更新)



著者紹介

緒方しらべ

緒方しらべ (おがた・しらべ)

1980年島根県に生まれる。18歳まで福岡県で育つ。ロンドン大学東洋アフリカ学院(SOAS)にて学士課程をへて、2005年に同大学院修士課程を修了。2007年より、総合研究大学院大学文化科学研究科にて博士後期課程に在籍。

2003年以来ナイジェリアでフィールドワークに従事し、造形活動にたずさわる人びとをテーマに研究をおこなっている。

(株)清水弘文堂書房

TEL 03-3770-1922 FAX 03-6680-8464

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